趣意文

「地域医療研究会全国大会2017in魚沼」は、2015年に行われた大阪大会のメインテーマ「少子高齢化社会における地域医療・地域包括ケアとは」を受けて、「地域医療新時代!在宅医療から高度先進医療まで~新潟魚沼の挑戦」を提言する。

地域包括ケアシステムは、連携から統合と言われているが、統合するにはシステムの縦軸を設定して横軸(連携)を改めて見直す必要があり、大小様々な 地域の“物語”の総体の組み立て・組み直しを連携から統合と考えたい。

魚沼地域の第一の物語は、日本で最も医師の少ない雪深い山間地区の医療が、明治維新、敗戦の大きな節目を越え、戦後は1976年の大和病院建設を機に、公立病院のリニューアル、民間病院の新設、併せて特別養護老人ホームなど福祉の躍進があったことである。

第二の物語は、2015年6月魚沼基幹病院(併設 新潟大学地域医療教育センター)の開設、新市立病院(3院)の建設(移転新築)の地域完結型医療システムづくりまでの10年である。

第三の物語は魚沼地区にも在宅医療にこだわる複数の診療所が生まれ、なかには「こども園」の指定管理も担い、それらが新システムを支える土壌づくりになったことである。

また、これら物語のなかで、さらに具体的な話題を紹介すると、ひとつは、かつて人口1万5千の旧大和町で、ゆきぐに大和総合病院中心の地域包括ケアシステムがつくられ、医療・保健・福祉の三位一体の「大和方式」は全国的モデルとなったこと。

ふたつ目は、魚沼地域の医療再編新システムづくりの発祥の地小出地区で、校舎のない学校として地域医療魚沼学校が生まれ、「市民一人ひとりが医療・健康資源」を合言葉に、今でも活動を続けていること。

さて、地域医療研究会は、思想的にも戦後のわが国の医療の改革に積極的な提言をして全国的な活動をしてきた。しかし、昨今の社会情勢の中で今後の会の方向が必ずしも明確ではない。そこで今大会は、地域医療の“地域”に敢えてこだわってみようということになり、若い世代を中心に企画することになった。

幸いなことに「地域包括ケアシステム」は文字通り「地域づくり」であり、医療や介護の役割も大きい。したがって、魚沼の地域にこだわることは、必ずその経験が全国の同志に共有されるものと信じたい。

井の中の蛙も、外部への幻想に惑わされなければ必ず井戸の深部に底流(本流)する地下水に触れるはずである。「大和方式」もその一例である。

また越後(魚沼)は食材の豊かな土地であり、米(地酒)・雑穀、多彩な野菜は言うに及ばず、日本一とも言うべき山菜、きのこ、木の芽、木の実、川魚、海魚、山の動物などがある。

ユネスコ世界文化遺産認定の「和の食」は、発想も越後の伝統食と類似している。しかも越後で強力だった縄文人の食とそのバランスは不思議なほど符号していることがわかった。

本大会では地域文化の縦軸として、縄文・越後・和の食をランチョンセミナーで提供する予定であり、現在の乱れる食生活の将来への指針になることを期待したい。

なお、南魚沼市では大会場の制約があるため、大ホール1つにサブホール1つでプログラムを消化することとしたい。

そのために2泊3日の日程をとらせていただいた。参加者全員がひとつの会場で地域医療の物語を語り合えることを期待する。

 

大 会 長  黒 岩 卓 夫
(医療法人社団 萌気会 理事長)